COLUMN
<第16号>

「職務発明の取扱に関する注意点」

【はじめに】
 少し前のことになるが、殆ど単独で青色LEDを開発したとされる元研究者が、職務発明の報奨金を巡って元勤務先に起こした民事訴訟において、約600億円(但し主文では、請求額の200億円)の請求が認められるという異例の判決があった。これ以外にも、退職後の社員の職務発明に関する報奨金を巡る民事訴訟が増加しており、その判決額も徐々に増加しつつある。使用者及び従業者として、このような事件の発生を未然に防ぐには、どのような具体的な方策を取るべきだろうか。
【職務発明とは】
 そもそも職務発明とは、その性質上使用者等(使用者、法人、国又は地方公共団体)の業務範囲に属し、かつ、その発明をするに至った行為がその使用者等における従業者等(従業者、法人の役員、国家公務員又は地方公務員)の現在又は過去の職務に属する発明と定義されている(特許法第35条1項)。使用者等が組織として行う研究開発活動が我国における知的創造において大きな役割を果たしていることに鑑み、使用者等と従業者等との間の利益を調整することにより、従業者等の権利を保護すると共に、使用者等の研究開発投資を促すことを目的としている。

 職務発明である場合には、特許を受ける権利は原始的に従業者等に帰属することを前提とし、使用者等には法定通常実施権の付与、及び特許を受ける権利の予約承継等が許容される。また、従業者等については、使用者等が受けるべき利益と貢献の程度を考慮しつつ、「相当の対価」を請求する権利が認められる。
【法改正および紛争の未然解決に資する具体的方策】
 平成16年度の特許法改正により、「相当の対価」については、契約・勤務規則その他の定めにおいて、使用者等と従業者等との協議状況等を考慮し、不合理と認められるものであってはならず(第35条新4項)、そのような定めがない場合又は不合理と認められる場合には、その発明により使用者等が受けるべき利益額、その発明に関連して使用者等が行う負担、貢献及び従業者等の処遇その他の事情を考慮して定める(第35条新5項)ものとされる。この法改正により、多少とも「相当の対価」に関する民事訴訟が、減少していくことを望むものである。一方、法改正の内容は、未だに抽象的なので、これを具体化する方策について考えてみたい。
 (1)契約書の作成
使用者等と従業者等との協議に基づき、「相当の対価」に関して、できるだけ具体的な契約書を作成し、従業者等においては使用者等と個別に契約しておくことが望まれる。できれば、契約内容に関する協議の詳細についても残しておき、後日の解釈の参考となるようにしておく。従来のように、新入社員の入社に際して、包括的な内容にサインさせることについては、問題が発生し得るので、職務発明規定については、別に契約を設けることが望ましい。
 (2)報奨金制度の実行
 大企業では、既に報奨金制度を大きく見直し、従業者等に対して巨大な利益をもたらし得る制度が作られている。しかしながら、中小企業等においては、未だに報奨金制度自体が存在しないところもあるだろう。そこで、それほど高額とはならないでも、一定の額を従業者等に支払う発明報奨金制度を新設(或いは改正)してはどうだろうか。従業者等にとっても新規な工夫を行うインセンティブが働き、仕事の効率化にも資すると考える。

専門家プロフィール
小林洋平

【プロフィール】
1985年 京都大学理学部卒業。一般企業にて主に新薬の研究に従事した後、2001年弁理士として独立開業。産業財産権(特許、商標など)に関する出願〜登録事務に精通。医薬品開発に携わっていたことから、バイオ関連技術を得意分野の一つとしています。

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