COLUMN
<第62号>

「争続対策としての遺言の重要性と相続後の手続き省略メリット」

1、相続問題の現状


 相続人間での任意の遺産分割協議が成立せず、家庭裁判所に遺産分割調停事件を申し立てる件数は年間1万件前後で推移しています。調停を申し立てるに至らなくても、協議が成立せず遺産の帰属が定まらずに放置されているという状態の案件に行き当たることも当職は数多くあります。実際に争いになり、相続人同士で不仲となってしまうような家庭は、皆さんのまわりにも少なからず存在しているのではないでしょうか。

 今回は、どの家庭でも将来起こる可能性のある相続問題に対して、従来から有効な対応策であるといわれてきた、遺言を残すというアプローチをあらためて検討していきます。なお、財産が少ないから対策が必要ないと仰る方も多いですが、それは間違いであると念のため申し添えさせていただきたいと思います。財産の大小と現実に争いが発生するかとは全く別問題としてとらえるべきです。残される相続人に対して口頭ではなく書面で意思を残すことはとても有意義なことであるし、元気なうちに遺言を残すことが親族内におけるある種のマナーとして定着していくことが望ましいと私は思っています

2、遺言の効力


 遺言とは、遺言者の死後の法律関係を定める最終意思の表示です。基本的にはこの最終意思に基づき遺産を受遺者に帰属させます。よって仮に遺産の帰属で争いになり、裁判になったとしても遺言と異なる判断は裁判所は通常しません(もちろん遺留分の範囲内では覆される可能性はあります)。これにより紛争が抑止されることとなります。また、遺言者の意思がはっきり書面化されているのであれば、相続人はその意向を汲みとって友好的に話し合いをするかもしれません。多くの方は遺言の有用性としてこのような効果を考えているのではないでしょうか。

 もちろん上記の理由は最も大きな遺言の効力ですが、私が最も注目したい遺言の有用性とは、遺言があることによって大幅に手続きを省略することができるという点です。これは法が遺言に対して強い効力を与えた結果なのですが、たとえば被相続人(亡くなった方)の有する銀行預金等は死亡により凍結され、これを引き出すには各金融機関ごとの様式もしくは遺産分割協議書に相続人全員が実印を押し、たくさんの印鑑証明書や戸籍謄本等を添えて提出することが求められます。もしこの場合に仮に遺言があったとすれば各相続人の印鑑をもらうことなく、遺言執行者がその権限により預金口座の解約などの対処が可能となりますし、場合によっては印鑑証明書、戸籍謄本等の大部分が不要という取り扱いが認められます。

 このような手続きの省略は銀行預金等に限らず、不動産の名義変更や株式の名義変更などにも当てはまります。この手続きの省略により、たとえばのちに財産が発見された場合でも、新たに他の相続人に印鑑をもらいに行かずとも遺言執行者の側で処理をすることができ、相続手続きの煩雑さからくるストレスや度重なる相続人間の遺産についての話し合いを回避することができます。実際に相続の手続きをされた方であれば、このような手続きの省略が非常に有用であるということはご理解いただけると思います。

3、遺言書の作成


 上記のような効果をきちんと発生させるには法的にも有効な遺言を残す必要があります。遺言は民法その他の法令によって定められた方法にのっとることが求められており、厳格な要式行為であるといえます。遺言にはいくつかの種類がありますが、最もポピュラーな2つの遺言である公正証書遺言と自筆証書遺言を説明させていただきます。

  【公正証書遺言】
遺言者、公証人、証人2人の4名で相互に遺言を確認しあいます。公証人が関与するため証拠力が高く、他の遺言のように遺言者が亡くなってから家庭裁判所に遺言を持って行き、検認の手続きをする必要がないというのが公正証書遺言のメリットになります。

  【自筆証書遺言】
すべての内容を自書し押印することによって成立する遺言です。パソコンでの作成は認められませんし、公証人が筆記してくれる公正証書遺言と異なり文言も自ら正しいかどうかを判断する必要があります。場合によっては誤記等によって遺言全体が無効になってしまうこともありますが、完全な内容であれば、遺言者の見慣れた筆跡によりすべてが書かれているため、公正証書遺言よりも相続人の感情に訴える力があることは間違いないかと思います。費用もかかりません。

 上記のように2つの遺言は一長一短です。専門家として遺言に関わる場合はやはり遺言の証明力の問題や無効になるリスクを考え、公正証書遺言をお勧めすることが多いかと思います。

 以上、遺言についていろいろと述べさせていただきましたが、まだ敷居が高いと感じてしまう方も多いと思いますし、争いがないため遺言の必要性がないとお思いの方もいらっしゃるかと思います。最終意思を尊重するとして法が認めた遺言について、再度ご一考いただけると専門家としては嬉しく思います。


専門家プロフィール
萩野 健
【プロフィール】
明治学院大学法学部卒業後、司法書士事務所勤務を経て、
2009年はぎの司法書士事務所を開設

◆得意・専門分野
相続、贈与、遺言による登記、各種法人登記

【はぎの司法書士事務所】
〒487-0005 愛知県春日井市押沢台二丁目1番地19
TEL 0568-70-1572 / FAX 0568-70-3008
E-mail takeshihagino@gmail.com


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