COLUMN
<第54号>

「事業承継と中小企業経営円滑化法」

 第1 はじめに


 戦後60年以上が経過し、中小企業経営者の高齢化が進展しています。そして、多くの中小企業が技術があるのに後継者がいないために廃業したり、相続で円滑に後継者に事業を承継できずに相続のトラブルに会社が巻き込まれる事案が発生しています。

 そして、こうした事業承継の問題は、そのきっかけが経営者の死亡や相続といった個人的な問題であることもあり、これまで中小企業の事業継続を図る観点から、総合的な検討が必ずしも十分になされてきませんでした。

 しかし、国も事業承継を円滑にすることが日本経済を支える中小企業の技術、雇用の確保、ひいては日本経済の活性化につながると考え、中小企業の事業承継対策に力を入れるようになりました。

 その結果「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」(以下「中小企業経営承継円滑化法」といいます。)が国会で可決され、一部を除き、今年の10月1日から施行されます。

 第2 中小企業経営承継円滑化法とは


 中小企業経営円滑化法には大きく分けて以下の3点が規定されています。

1 遺留分に関する民法の特例

 一定の要件を満たす中小企業者の後継者が、先代経営者の遺留分権利者全員と合意を行い、所要の手続(経済産業大臣の確認及び家庭裁判所の許可)を経ることを前提に、以下の遺留分に関する民法の特例の適用を受けることができるとされています。

 @ 後継者が先代経営者からの贈与等により取得した株式等について、遺留分を算定するための財産の価額に算入しないこと
 →贈与した株式が遺留分減殺請求の対象外となることから、相続に伴う株式分散を防止することができます。
   
 A 後継者が先代経営者からの贈与等により取得した株式等について、遺留分を算定するための財産の価額に算入すべき価額を合意の時における価額とすること
 →後継者の貢献により株式価値が上昇したとしてもその分が遺留分減殺請求の対象外となるため、後継者の経営意欲が削がれることを防止することができます。
   

2 支援措置

 代表者の死亡等に起因する経営の承継に伴い、事業活動の継続に何らかの支障が生じていると認められる中小企業者が、経済産業大臣の認定を受けた場合において、以下の支援措置を講じることとされています。

 @ 当該中小企業者の資金の借入れに関し、中小企業信用保険法に規定する普通保険等を別枠化する。
   
 A 当該中小企業者の代表者に対して、株式会社日本政策金融公庫及び沖縄振興開発金融公庫が必要な資金を貸し付けることを可能とする。
   
 ※上記手段によって、株式・事業用資産の取得資金、信用力低下時の運転資金、相続税負担等の多様な資金ニーズに対応することを予定している。
   

3 相続税の課税についての措置

 政府が、平成20年度中に、経営の承継に伴い事業活動の継続に支障が生じることを防止するための、相続税の課税について必要な措置を講ずるものとする旨が規定されています。

 具体的には、平成21年の通常国会で税法の一部を改正し、経済産業大臣の認定を受けた非上場中小企業の株式等に係る課税価格の80パーセントに対応する相続税を納税猶予とすることが予定されています(雇用確保を始めとする5年間の事業継続が要件)


 第3 最後に


 中小企業経営円滑化法を利用することはあくまで事業承継の1つの方法に過ぎません。

 当然、遺言を用意しておくという従来の方法もありますし、会社法が施行されて比較的自由に株式の設計ができることになったことから、種類株式を事前に発行しておくという手法もあり得ます。



専門家プロフィール
原 武之
【プロフィール】
2003年(平成15年)に弁護士登録。
東京の森・濱田松本法律事務所で企業法務を中心に業務を行った後、2006年(平成18年)より名古屋の川上法律事務所に移転独立。

【川上法律事務所】
〒460−0002 名古屋市中区丸の内2丁目12番26号 丸の内セントラルビル5階
     TEL 052-201-7728 FAX 052-201-7729
     E-mail takeyuki.hara@kawakami-lawoffice.jp
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