COLUMN
<第48号>

M&Aこんな売り手に要注意!

1.ディスカウントストアの売り案件

 今年、会社を売却希望だったA社長は、会社を清算するという判断をされました。
 この会社は、酒のディスカウントストアを数店舗経営しており、売上が29億円、家族で役員報酬を6,000万円ほど取って、経常利益が1億円以上というすばらしい経営をされていました。競争が厳しい業種ながら、老舗としていいお客さんを掴んでいたのです。
 このA社長にお会いさせていただいたのは、その半年ほど前で、後継者がいないということで、M&Aがスタートしました。

2.交渉時の重大な嘘

 M&Aスタート時に、A社長は、1つ重大な嘘をついていたことがありました。それは、帳簿上の約1億円の在庫以外に、「簿外でさらに1億円ある」と言っていたのです。この話を聞いたときに同席していた顧問税理士は「え〜社長、ほんまですか?」とあきれた表情でした。
 この話を聞いた後、すぐに決算期が到来したのですが、正確な決算棚卸を依頼したところ、簿外在庫はほとんどなかったのです。
 この簿外在庫について、なぜ嘘をついたのかを聞いたところ、笑いながらA社長はこう言いました。「M&Aは駆け引きが大事だと思ったから、はったりをかましとこうと思って・・・」。この言葉を聞いて私はあきれたのですが、その時は軽い注意にとどめました。
 しばらくして、企業評価や提案書も作成し、M&Aに必要な資料を整備し、まずは、A社長が直接声を掛けていた上場会社へ買収の打診をしました。売却希望価格は7億円と伝えたところ、高すぎるということで、瞬間的に撃沈されました。その後、1社に断られた後、4月にあるスーパーへ提案したところ、買収に興味を示していただき、基本合意契約に向けてスタートしたいということになりました。ただ、この時、買い手社長から重大な指摘を受けてしまいました。実は、売り手の営業エリアにライバルの進出計画があったのです。この情報を買い手社長が知っていて、指摘されてしまいました。この瞬間、仲介者の私は、面目丸つぶれでした。

3.売り手社長と仲介者の信頼関係

 私は、買い手へ提案するときに売り手企業の内容が分かるような詳細な提案書を作るようにしているのですが、この提案書に(A社長へのインタビューの結果)「営業エリアへライバルの進出計画はない」と書いていたのです。実はこれが嘘だったのです。
 ライバルの進出計画を知らない訳がないので、「本当は知っていたのですね。」と追求したところ、「それを最近知って、お伝えしようと思っていたのですが・・・」と言われてしまいました。M&Aというのは、会社の将来を買うものなので、将来のマイナス要因は、将来のトラブルを避けるために早く言ってくださいと当初から何度も言っているにも拘わらず、また重要な嘘をつかれてしまったのです。これでは、お互いの信頼関係はなくなってしまいます。M&Aは、スタート時に少し着手金をいただきますが、成約しなければ赤字になるビジネスなので、仲介者と売り手社長は、運命共同体であり信頼関係なくして、ハッピーM&Aはあり得ないのです。
 私は、A社長にM&Aの厳しさを理解し反省もしていただきたいので、次のように言いました。「もし、重要な事実を隠したまま、高い金額で会社を売却すると詐欺と同じです。私は、今までA社長と御社の従業員のために動いてきたのですが、正直、私の誠意が伝わらず残念です。M&Aで嘘をつくと将来大きなトラブルになり裁判沙汰にもなりかねません。結局、損をして嫌な思いをするのはA社長ですよ。今回の件は、水に流しますが今後二度とこういうことがないようにしてください」

 今から思うとA社長は、急にアポイントを強引に前倒しにしたり、基本合意契約の交渉中も下記のような希望をいい、1週間以内に返事がなければ、M&Aを止めると言ったり、腑に落ちないことがいくつかあったのですが、最終的には、基本合意書に書かれた売り手責任の項目が飲めないといい、自らM&Aを止めるという決断をしました。

  @ 店舗の土地(個人所有)の賃貸については、15年の定期賃貸借契約にする

  A 早期(1ヶ月)で引き継ぎを終え、リタイヤする

 私は、この案件でさんざん振り回されましたが、何かを隠して売り逃げしようというA社長の考えが根本にあったようなので、結局M&A成約前にストップしてよかったのかなと思っています。


専門家プロフィール
小柴 学司

【プロフィール】

昭和43年10月徳島県生まれ。平成3年3月和歌山大学経済学部卒業。公認会計士、税理士。監査法人トーマツ、褐囎秤計不動産事務所を経て、平成11年より鞄本M&Aセンターで、企業評価・各種契約書の作成を中心にM&A業務全般を行う。平成15年6月、潟}イベルコンサルティングを設立とともに代表取締役に就任。

◆得意・専門分野
不動産・資産税を絡めたM&Aコンサルティング。成約業種は多岐にわたる。M&A用の企業評価は100件以上の実績。M&Aに精通した公認会計士であり、トラブルのないハッピーなM&A仲介が特徴。

【株式会社マイベルコンサルティング】
〒541-0044 大阪市中央区伏見町3-2-6 伏見町KYビル10階
     TEL:06-6205-5700 FAX:06-6205-5701
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     E-mail koshiba@maibell.com

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