COLUMN
<第46号>

社員持ち株会を活用した自社株相続税対策

自社株の相続上の問題

  長年会社経営を行っている社長兼株主(オーナー株主)にとって、自社株に対する相続税は頭の痛い問題です。相続時、自社株は会社の業績、過去の利益の蓄積、不動産等の含み益等を考慮して評価します。そして納税は現金が原則です。換金が困難な資産に対しても現金納税が要求されます。手元現金が豊富にあれば問題ありませんが、それでも納税により資金が枯渇することもあります。現金が少額であれば納税できなくなる可能性もあります。

社員持ち株会を活用

 このような状況下、相続税対策として社員持ち株会を活用する方法があります。社員持ち株会を設立、オーナー株主が所有する株式を持ち株会に売却する方法と、新株を社員持ち株会に第三者割当発行する方法があります。当然、社員の同意が前提となります。

オーナー所有株式の社員持ち株会への売却・割当価格

 未上場株式の税務上の評価ですが、少数株主*であれば株式の評価方式のうち低く評価されることが多い、配当還元方式、すなわち過去2年間の平均配当金額の10倍で売却・割当ができます。

*少数株主(株式異動後で判定)
筆頭株主グループの議決権割合が50%超→50%未満の株主

筆頭株主グループの議決権割合が30%以上50%以下 →30%未満の株主等

売却・割当株式の内容

 オーナー会社においては社員が株式を持ったところで少数株主であれば株主総会ではオーナーの意見が通り、少数株主にとっては配当だけが楽しみとなります。そこで、社員持ち株会には利益配当優先株式という種類株式を売却・割当ることを推奨します。すなわち、毎期一定額以上の配当を法令上の制限に触れない限り支払い続けるのです。一方、株主総会における議決権を制限します。
 オーナー所有株式を売却する場合、事前に株主全員の同意を得て譲渡するオーナー所有株式を種類株式に転換しておきます。第三者割当の場合、種類株式を所定の手続を経て発行します。
 

オーナーにとってのメリット

1)社員持ち株会に売却する場合、オーナー所有の株式の一部が換金されます。そしてその売却した株式数の分、その後の株価上昇による税負担増から開放されます。
2) 社員持ち株会に第三者割当発行する場合、発行済株式数の増加により1株当りの評価額が下がります。
3) 社員持ち株会の議決権割合が1/3未満であれば経営権を脅かされる心配がありません。

社員にとってのメリット

1)会社の業績が安定する限り、安定配当が得られます。
2) 株式の取得価額=配当の10倍=年金利10%(配当から所得税20%が源泉徴収されるので手取り金額でみると8%)の金融商品となります。
3) 経営参画意識を持つことができます。

オーナーにとってのデメリット

1)決算書を社員に開示していない場合、社員が株主となった以後の決算書を開示しなければなりません。
2) 議決権割合または発行済株式の3%以上を所有する株主から帳簿閲覧権を行使される可能性があります。

社員にとってのデメリット

1)株式取得時に資金拠出が必要となります。
2) 会社の業績が傾いた際、配当を得られなくなる可能性があります。

<社員持ち株会設立にあたっての注意点>
 社員持ち株会はオーナー株主にとっては相続税対策として有効な対策の1つですが、前述のとおり社員の同意なくして設立はできません。
 社員には福利厚生の一環であること、一緒に会社の業績安定・工場に寄与して欲しいこと等を理解していただく必要があります。更に相続税対策はオーナー一家だけの問題でなく、会社が存続すること=社員の安定雇用にもつながることまで理解していただくため、平素から社員とのコミュニケーションを欠かすことはできません。


専門家プロフィール
谷澤 佳彦

【プロフィール】

1987年和歌山大学経済学部経営学科を卒業し、イトーヨーカ堂(財務室証券部)、
三田会計事務所勤務を経て、1993年税理士登録および開業し現在に至る。

◆得意・専門分野
1994年、95年と連続で実家の相続が発生し多額の相続税を納付することに。相続税で苦しむ人の立場を痛感。これを機に相続税対策に注力。現在、相続税専門税理士の下で知識・実務対策の研鑽を積んでいる。


【谷澤佳彦税理士事務所】
〒113-0033 東京都文京区本郷3-32-6 永功ハイヴ801号室
     TEL 03-5805-3875 FAX 03-5805-3893
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